ほんとのうた(仮題)
第5章 騒々しい景色の中で
どうやら真は、俺を助けているつもりで登場している。店の中からこの状況を目に止め、慌て駆けつけて来たのだろう。
会話の一部を耳にしたものか、女の勘が働いたものかは知らないが、彼女なりに今の状況を正しく把握していたようだった。
そんなある種の気遣いに対し、俺の中にどんな気持ちが生じていたのか。それは一旦、置いておかせてもらおう。
まず、それより先に――
「あのぉ……先輩……コチラの方は、一体……?」
太田は、豆鉄砲を喰らった鳩よろしく、その目を白黒させていた。
ほんの少し前、自分の女を見せつけるような態度を取ったのは、この太田自身。しかし真の登場を機にして、立場はひっくり返った。その底意地の悪い魂胆に対する、強烈なカウンターパンチを浴びてダウン寸前といった様相であろうか。
「な、なによ……この下品な女は……?」
亜樹はまるで、若い嫁に嫉妬する意地悪な小姑のように顔をしかめた。
敢えて「下品」と見下しながらも、それが真にふさわしくない言葉であるのは口にした本人すらわかっているはず。亜樹自身の容姿その他がどうこうという問題ですらなく、真は比較対象という枠を遥か彼方に飛び越えた場所に立っていたのだ。
なんてことを、真自身が目論んでいたのかは、ともかくとしても。ここまでのシナリオは、順調に進んでいたように思われるが。
しかし、このタイミングで、ちょっとしたアクシデントが加わった。
それは――
「あの……お取込み中に、大変失礼かとは存じますが……」
「ん?」
その声を耳にし、後ろを振り返った俺は、そこにモジモジと立ち竦む若いショップ店員の存在を認めた。