ほんとのうた(仮題)
第5章 騒々しい景色の中で
真はやはり、そんな事情をも察していたらしく。でも、それなら、敢えて蒸し返すような真似は止めてくれないものかね。
気遣いってものを、少しは勉強した方がいいんじゃないか、この子は……。
そんな俺の想いもよそに、真は更に掘り下げるように問うてきた。
「そういうのって、やっぱ悔しいの? それとも、哀しい?」
「それが……はっきり言えば、それほど真剣には付き合ってなかったと思う。それでも、少し前なら、きっと悔しがっただろうな。態度には死んでも出さないけども」
「少し前なら? じゃあ今は違うんだ。なんで?」
「それは――」
と言いかけた時、俺は真を目を合わせると、こう言葉を濁した。
「いや……よくわからんよ。まだ、な」
そんな曖昧な言葉であるのに、不思議と真は納得したかのように――
「ふーん。そっか」
と、言っていた。
そんな流れで質問攻めに合わされるのも、どうかと思い。ふと適当に思いつくと、今度は俺の方から訊ねた。
「真は今までに、真剣に付き合った男はいるのか?」
口に出してみると、妙に探ったような内容に取られはしないかと、若干の後悔が襲った。
だが、真は手を引くようにその場に立ち止まると、真剣な眼差しを俺に向けている。
「初めてだよ」
「初めて……とは?」
「こんな気持ちになったのは、オジサンが初めて」