ほんとのうた(仮題)
第5章 騒々しい景色の中で
「え……なっ……!?」
その言葉の衝撃に驚き、狼狽する――俺。
すると、その反応を見た真は――ニヤ、と悪戯っぽく笑んだ。
「そんな風に、言って欲しそうな顔、してたよ」
あっ! 畜生、からかわれてる……。少し気を許せば、途端にコレか。
「そんな顔、してねーよ!」
俺はその時の気恥ずかしさを、大声を張り上げて精一杯誤魔化した。それから、それまでと同じように苦笑を浮かべている。
真もまた同じく、そんな些細なやり取りを面白がっているようだ。
その雰囲気の中に逃れて、これまでの数日と同じように、変わらぬ関係を過ごすことはできたはず。
その意味で、この瞬間は分岐点だった。
二人で車に乗り込み肩を並べて、俺がハンドルを握った――その瞬間のこと。
「ねえ――試しにさ、一回してみない?」
「するって……なにを?」
「――キスを」
真は唐突にそう告げると、俺の肩にそっと身を寄せていた。