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「……」

　その時、黙って数秒。俺の中には、まだ若干の葛藤が残されていた、と思う。

　また、からかってるのか――と、そう言って一笑に伏すことは、実に簡単だった。

　だが、その時見つめた真が――真の大きな瞳が、紅い夕陽を映し取り、ゆらゆらと揺れているのを、俺はじっと見つめてしまっていたから。

　果たして、微妙なバランス感覚のままの、その狭い車内は……。

「ダメ、かなぁ？」

　と、答えを待たず、真が小首を傾げた。

　それをきっかけにして、どこか危うい会話は続く。

「真にそんな風に言われて、断った男なんているのか？」

「それ以上の状況をスルーしてきた男が、よく言えたものだね」

「そうだっけ？」

　刹那――助手席に座っているその身が、スッと伸びたのがわかった。

　そして――

「うん、そうだよ――」

　そう発した直後――

　まるで、なんらかの力に引合されたようにして――。


「……！」


　二つの唇は、重ねられていた。