ほんとのうた(仮題)
第6章 お気楽、逃避行?
そんなことに業を煮やした格好で、経営者側の肝煎りにより企画されたのが新規事業部。メーカーの受注に頼るのではなく、自社製品を直接市場に売り出そうというものだった。
その話を聞き及んだ時に、俺は不安を覚えていた。すると、そんな悪い予感は、思わぬ形で当たってしまうことになる。俺は期せずして、件の新規事業の統括責任者というポストに任命されてしまっていたのだ。
当然、ノウハウはなく、全てが一からのスタートになる。右も左もわからぬままに、俺は他部署より集められた十数名の部下と共に、経営側による思いつき程度のアイディアを形にせんとして仕事に明け暮れる日々が続いた。ようやく目途がつき、第一号の商品を販売し始めたのは数年前のことだ。
しかし――
小さな会社が大企業に頼らず自社製の商品を売出すということは、想像以上にハードルが高いことだと思い知らされることに。その結果――納期の遅延、クレーム処理、返品と不良品の山――次第に俺自身の業務時間の多くは、ネガティブな作業で謀殺されようとしていた。
結果的には新規事業を始めたことが、更に会社の業績の足を引っ張った格好となる。そのような事情を受け、本年度より新規事業部の縮小(実質撤退)が決断されたのは、当然のことのように思われた。
立場上、失敗に終わったことに悔いは残しつつも、俺の肩の荷が下りていたのも事実。だが、胸を撫で下ろしたのも束の間。俺はその後の会社の対処に、愕然とすることになる。
従業員全員を前にして、社長は自らそれを告げた。
「甚だ不本意なことではありますが、業績悪化に伴い当社にあっても雇用を再考する必要に迫られております。つきましては、新規事業部の所属員を対象の中心として、希望退社を募ることと決定いたしました」
すなわち取りも直さず、それはリストラの勧告であった。