ほんとのうた(仮題)
第6章 お気楽、逃避行?
「そして、その処遇については本人と直接、話し合う予定である――とも」
「……」
一体、どういうことだ?
「新井さん――我々には貴方のように権力を相手取るような真似は、とても無理だ。勝手なこを言うようで、申し訳なく思ってはいます。ですが、できれば戻っていただけないだろうか。私と同様に、多くの社員もそう望んでいるのですよ」
困惑する俺を前に、斎藤さんは最後にこう懇願した。
それに対しては――
「少し、考えさせてください……」
とりあえず、そんな風に答えておくより他はなかった。
しかし、今更そんなこと言われてもな……。
「……」
斎藤さんが席を立った後、頭の中で話の内容を整理した俺であったが、正直釈然としない想いに苛まれるばかりだ。そうは言っても聞いてしまった以上は、どうかご勝手に、と開き直ることすら最早難しいように思う。
意図したことではないにせよ、今の状況を生み出している発端に、俺の存在が深く関わってしまっているのは動かしようのない事実である。
そんな風に考え事に没頭してたから、俺はすっかり失念していた。なにのことかと言えば、斎藤さんの背後で聞き耳を立てていたであろう、チューリップハットの女のことを――。
「なんか、さっぱりわかんなかったけど。大変みたいだね」
真は――コーラが注がれたドリンクバーのグラスを片手に、さっきまで斎藤さんが座っていた席にちゃっかりと移動。ストローを口に咥えながらも、一応は俺を労ってその様に言った。