ほんとのうた(仮題)
第6章 お気楽、逃避行?
「おや、変だな……部屋で待ってろって、確か言っておいたはずだけども」
後姿を見て、とっくにその存在に気づいていはいたが、俺は敢えて呆れた口調で言う。
だが、その程度のことで、真が己の行動を顧みることは、あり得ないのだった。
「だって、お腹すいちゃったもん」
「さっきは、まだ減ってねーとか、言ってただろう……」
「さっきはさっき! いつの話してるのよ。てゆーか、思い出しても腹が立つんだけどぉ――普通、あの雰囲気までいって、やめるゥ? ヤル気満々だった私をスルーして、よく冷静に電話なんか出れたものですよねー!」
「オイ……わかったから。とりあえず、大声は勘弁してくれ……」
俺はそう言って頭を抱えてはいたが、一方でモヤモヤとした気分は少し晴れた気がしている。
暫く宥めて、落ち着かせた。そして俺が改めて一連の事情を簡潔に話すと、真はこう訊ねていた。
「――で、オジサンは、どうするの?」
「どうするって、どうもできねえよ。俺は既に、退職届を提出してる身だぞ」
「だけど、戻ろうと思えば戻れそうなんでしょ?」
「うーん……それが、どうにもな……」
納得できない、と感じ。俺は腕組みをして、考え込む。