ほんとのうた(仮題)
第6章 お気楽、逃避行?
確かに無職となって清々した気分だとは言わないが、少なくとも会社に嫌気が差していたのもまた本心だ。それを今更、復帰の可能性を示唆された処で、俺にどうしろと言うのか。
斎藤さんたちの気持ちは、わからないでもないが……。
そもそも当の俺には、その件について会社から何ら打診されてもいないのだ。にも拘わらず、外堀を埋めるような今の展開が、どうにも解せない。
どうも一人で頭を混乱させた俺は、ふと真にこう訊いてみた。
「真は、どうしたらいいと思う?」
「そんなの、オジサンのしたいようにしなよ」
微笑した真は、あっさりとそう答えている。
したいように、か……。
思慮に浅いようにみえて、それは俺の頭の中で失われていた発想だ。会社を辞めたことも、色々な事情を耳にし迷っていることも。更に言及すれば、親父に逆らって家を出たことことですら。
そう言われてみた時に、俺自身がしたいようにしてきたことなんて、これまでの人生でどれほどあったというのだろうか。
だが、それは同時に俺と真の生き方の違いでもあるのだ。否、生き方なんて格好の良い言い回しは、真にならばいざ知らず俺には相応しくないのだろうな……。
そんな風に考え苦笑を浮かべた俺の顔を、真が不思議そうに眺めていた。
「アレ――私、なんか変なこと言ってる?」
「いいや、真は正しいよ。だが、この件はやはり俺の問題みたいだ。まあ、そんなこと口にするまでもないことだったな……」
「オジサン……?」
少し心配そうな顔の真に、今度はちゃんと微笑んでみせる。
「ちょっと、電話してくるよ」
「誰に?」
「全ての事情を知ってそうな奴、に」
そして、そう告げた俺は携帯を手に席を立った。