ほんとのうた(仮題)
第6章 お気楽、逃避行?
それはどうやら、想像以上に最悪のシナリオである、と俺は察した。それはつまり、こういう話であるのだろう。
おそらくは会社側にしてみても、多くの社員に反感を抱かれている今の状況は好ましくない。その上に暗に社員のリストラを強行しようとするのだから、それは尚更だ。
すなわち俺の復帰は、恰好のスケープゴートとして足り得る。そうなれば社員の反感は一旦は治まるであろうと、そう考えているはず。当方は仮にも一度は表立って、リストラに抗っている人間であるのだから。
だがその場合、たぶん俺は斎藤さんたちの力にはなってやれない――否、そんな力など一切残されはしない。社長に許しを乞い頭を下げるという形は、俺を懐柔させる意味を有している。
立場的にも道義的にも、会社の言いなりにならざるを得ない。一度は自ら退職を願い出ている身だ。それが戻るとすれば、どうしたってそうなってしまう。
俺の脳裏に、最悪の場面が浮かぶ。それは飼い馴らされた俺に失望しながら、会社を去ってゆく斎藤さんたちの姿だった――。
「……」
そんなものを頭の片隅に置き口を噤んだ俺に対し、太田は軽快に言葉を連ねてゆく。
『先輩だって、もう四十でしょう。再就職だって、簡単ではないと思うなあ。しかも、会社のやり方に異を唱えている退社経緯を知れでもしたら、おそらく真面な企業なら二の足を踏むのではないでしょうか。地元を離れるお考えでしたらともかく、その手の噂は近隣の同業種の間で広がるものですしねぇ。僕からも是非に、冷静な対応をお願いしたいものです』
その噂の発信源になりそうな男が、うるせーよ。
と、太田のヤツに怒りを覚えたところで、逆に俺の腹は決まった気がした。斎藤さんらには悪いが、そうと先の状況が知れた以上、戻ろうなんて思うはずもあるまい。