ほんとのうた(仮題)
第6章 お気楽、逃避行?
「一応、話はわかったよ――が、たぶんお前の願いに沿うことはないだろうが」
『そうですかー、それは残念だなぁ』
太田は然して残念そうでもなく言った後、ガラリと話題を変えて話し始めたのだった。
『ああ、そうそう。それにしても、例の彼女には驚かされたなあ。先輩があんな娘と、一体どうやって知り合ったんでしょうねえ?』
突然、真の話題を振られ、俺も思わず口籠る。
「いやっ……別に、アイツは……単なる遠い親戚とか、そんな感じだから……とにかく、気にすんなって」
「そんなの、気になるに決まってるじゃないですかぁ。先輩があんな美人を連れているだなんて。とにかくビックリでしたよ――色々な、意味でね」
思わせぶりなその口調が、俺には気になっていた。
「太田……それは、どういう――?」
しかし、そう口にした俺の言葉を遮ると、太田はこう告げて通話を終わらせている。
『ともかく――先輩の復帰の件では、この僕が窓口になっています。もう一度、じっくりお考えになってください。色々なことも含めて――どうか、懸命なご判断を』
「……」
太田との電話を終えた俺の胸の中には、嫌な予感が募り始めていた。