ほんとのうた(仮題)
第7章 二人の時間(とき)に
同じような話は、芸能人のエピソードとしてたまに耳にすることがあった。
舞台だったりライブだったり芸事に殉じる者は、たとえ肉親であっても、その死に目に遭えないことだって儘あることなのかもしれない。
危篤であった祖母に、会えぬままに……。そこまでを聞いていた俺は、真がその一点にこそ悔いを残しているのだと、そう考えた。
だが、どうやら――それだけでは、ないらしく。
「私が、報せを受けたのは……もう、お葬式が終わった後のことだったの」
その時――義母である事務所代表との確執――ネットで知り得た情報が、ふと俺の脳裏に浮かんだ。祖母の死に際して、諍いが生じたと思ったからだが――。
しかし話の続きを聞き、俺は己の浅はかな想像力を恥じることになる。
「おばあちゃんが、私には伝えないように言ったみたい。唄ってる真の、邪魔はしたくないから……って」
そして、真が本当に悔いていたのは、やはり――
「でも、その時に私が唄っていたのは……やっぱり“ほんとのうた”じゃなかったから……私は、それが悔しくて……今だって…………悔しいよぉ」
「真……」
その頬に涙を伝わせながら、真は抱えていた想いを吐き出していった。
「今のままじゃ私、おばあちゃんに胸を張ることができない。これが私の唄だって、そんな唄でなければ……このままじゃ、これからも……」
そう話し終えた時。8分にも及ぶ長い曲は、車内で静かな余韻と変わる。
すると、真は――
「これは、曲を書いた人の……”ほんとのうた”なんだね…………きっと…………」
最後にそう告げると、今度は本当に眠ったみたいだ。