ほんとのうた(仮題)
第7章 二人の時間(とき)に
海の温度に身体を震わせながら、俺は文句ありありの顔を真に向けるのだが。
「アハハハハ!」
その当の真は、実にご機嫌に笑ってくれているではないか……。
その時の俺が、どう感じたかと言えば、それは「やっぱり、真はその笑顔が一番」なんて、当然そんな悠長なものとはなるはずもないのだ。
「この野郎、なにしてんだ! 風邪でもひいたらどうする!」
俺は濡れた身体を震わせ、そう喚き散らした。
だが、それらの文句に、まるで構うことなく真は――
「それっ!」
「オイ――よ、よせ!」
――バシャーン!
倒れた俺に飛びかかるように、自らも海の中へダイブを慣行するのだった。
「バ、バカ……お前、なに考えてるんだよ……」
「アハハハ! 気持ちいいっ!」
「笑ってんじゃねー!」
「細かいことは気にしない! そら――口やかましい男は、こうしてやる!」
それは、無邪気を通り越して気が触れてしまったのかと思うほど。異様なハイテンションに身を委ねた真は、言葉の勢いに任せて自らの胸に俺の顔面を押しつけ、そのまま海水の最中に沈み込んだ。
く、苦しい……。
どうして俺が、こんな想いをする必要があるのだろう。俺は息苦しさと海水の冷たさに耐えながら、その理不尽を呪った。
が、いつまでもそうしてたら、俺はその内に死んでしまうだろう。些か大袈裟に危機を感じ取った俺は身体に力を込めると、真に対する反撃を試みた。
ザバッ!
「ちょ、調子に乗ってんじゃ――ねえっ!」
海中から頭を擡げた俺は怒りのパワーを用い、まだ絡みつくような真の身体をプロレスラーさながらに一気にリフトした。
ん……?
その瞬間、腰にぴりりとした嫌な違和感が生じた。が、興奮して満ち足りたアドレナリンにより、とりあえず誤魔化されたようである。