無料で楽しめるちょっと大人のケータイ小説

「さぁて――このじゃじゃ馬。どう仕置きしてやろうか？」

　肩口に抱えつつ、俺がそう訊ねるが。

「きゃあ！　こわーい！」

　真はそんな言葉と裏腹に、実に楽しげな顔を見せるのだった。

　その後も、すっかり箍が外れたように、俺は真と水辺の攻防を続ける。

　互いに手足で、水しぶきを掛け合い――笑う。

　今時、ベタな恋愛ドラマでもまずお目にかからない場面が、そこには展開されていた。しかも一方は、かなりいい歳のオッサンなのである……。

「キャハハ！」

　だが、戯れ笑う真の姿は、キラキラと夕陽に映えていたから。ふと、俺は気づくのだ。

　今日一日、水族館でもどこでも、それは同じだった。俺は常に、なによりも真を見ていたのだ、と。

　真が俺の隣りに居てくれるという幸福。俺はそれを否定することを止めている。後先を考える暇もないくらいに、真の魅力はまるで容赦することがないのだ。

　だから、俺は――。


「オジサンたち……なに、してるの？」


「えっ……？」


　それは、釣竿を肩に担いだ地元の少年。小学生高学年くらいの年頃の彼は、いつの間にやら砂浜に立つと、呆然と俺たち二人の奇行を眺め、そう訊ねているのだった。

　その視線にハッと我に返った俺は――


「め、面目ない……」


　そう口にして、ずぶ濡れとなった己の姿とそれまでの行いを、顔を真っ赤にして恥じるより他はなかった……。