ほんとのうた(仮題)
第7章 二人の時間(とき)に
少年の純真無垢な瞳に我が愚を知り、ホテルに戻ることにした俺と真ではあったが。
「お、お客様! そのお姿は、一体?」
全身ずぶ濡れの俺たち二人の姿は、当然そのロビーにあって迷惑千万なのである。
「申し訳ありません……ちょっと、戯れを」
と、とりあえず粗相を詫びた俺たちは、そのままホテルの大浴場へと案内されるのであった。
そうして――
「ふう……」
温泉が引かれているわけでもない、なんら変哲もない浴場で俺はようやく一息をつく。
やや弱い照明の中で白い湯気の立ち込める、ほどほどの広さの浴槽には、俺の他に七十くらいの老人が一人気持ち良さげに調子外れの鼻歌を奏でていた。
「……」
昨日の今頃は全く予想してもいない情景を幾分大袈裟にいえば、まるで異空間の如し。先程の海での愚行を取り上げるまでもなく、そこから今に至る俺は甚だ普段の己から逸脱していた。
それが面映ゆくもあり、それでいて愉快にも思えている――なんて。
一風呂をそれぞれ浴び終えた俺たちは、食事のためホテル2階のレストランへと向かった。用意された夕食は、よくあるビュッフェスタイル。
ちなみに濡れた服をホテルのランドリーサービスに出すと、入浴後の俺と真は浴衣姿である。
もちろん着替えは持ってはいたが、従業員に『浴衣OK』であることを確認すると面倒なのでそのまま食事を済ませることにした。