ほんとのうた(仮題)
第1章 孤独(ひとり)と逃避(ひとり)
女の両腕が俺の頭部を抱き寄せるように、胸の弾力の最中へと迎えていた。
微かな香水と若い汗が混じり――そんな女の香りが、ふわっと立ち込めている。
たわわな胸の感触と共に、それが俺の正常な思考を狂わそうというのか――?
その上でさらに、女はハッキリと自らの意図を言葉にした。
「いいよ――オジサンの好きにしたって」
潤んだ瞳が、じっと俺を見据えている。
当然ながら、そこまで言われてしまえば、白を切るわけにもいかない。
だがそれは、このまま「好きにする」のとは断じて同義ではないのだ。
「ち、畜生……」
俺は魅惑的な二つの山の谷間で、辛うじて冷静さを取り戻そうと足掻く。
まずは状況の整理をしようか。その上で、これがなんらかの罠である可能性を疑ってみよう。
と、とにかく……なんか、マズそうだぞ!
偉そうに前置きした割に、得られた答えは直感的なものとなった。それでも、一気に欲望に傾くことだけは、辛うじて避けられていたようだ。
その辺りが、そこらの若造とは違う。伊達に年を重ねているわけではないのだ。
俺は心地よい弾力から顔を離すと、女の顔を睨みつけた。
しかし、俺の緊張感とは対照的に――
「ふわぁ……」
女は大口を開け、呑気にも欠伸をしているではないか……。
「オイ……」
「ああ、うん……なぁに?」
「なぁに、じゃねえよ。人の部屋で、勝手に眠そうにしやがって」
「ゴメンね。急に……瞼が……さぁ」
と、その言葉通り。女の瞼が、徐々にその重さに耐えかねている。