ほんとのうた(仮題)
第7章 二人の時間(とき)に
当然ながら俺は、真の知名度を憂慮する必要がる。が、この日の宿泊客はどこぞの敬老会といった様相の御一行様とその他も年配のご夫妻が数組いるだけ。そんな感じの客層であれば、まああまり気にしなくても平気だろう。
と、俺が周囲を見回してそんなことに気を裂いている間にも、真の動きは俊敏である。
「オジサンも、早く取ってきなよ――お料理」
そう言って俺を促した、真の前に並んだ品々に俺は些か辟易した。
「オイ……真。なんでも持って来ればいいってもんじゃねーだろ……」
ローストビーフ、サーモンのマリネ、デミグラスソースのふわふわオムレツ、ポタージュスープ等々の比較的上品に取り分けられている料理は、まあいいとしよう。
それにドンとしたボリュームで続くチャーハン、カレーライス、ミートソースのパスタ、果てはお椀一杯のソバにまでに至る怒涛の炭水化物コンボは、明らかに俺の理解を超えた。
そうして――
「……」
大小の更に盛り付けた各種の料理が順次、真の口から吸い込まれる様を、俺は唖然として見守ってゆくのである。
目の前でそんな食欲を見せられてしまえば、それなりに空腹を覚えていたはずの中年の胃袋は、しかしその視覚効果を以って満たされようとしている。最初に取り分けた小皿のオードブルをつまみとしてビールを傾ければ、俺の方はもう「御馳走さま」と口にする準備が整っていた。
「オジサン、デザートは?」
「いや……俺は、もういいから」