ほんとのうた(仮題)
第7章 二人の時間(とき)に
そのせめてもの療養の意味で、真を先に部屋に返すと仕方なくもう一度大浴場へ赴く。患部(というまでではないが)の腰を暖めた後、脱衣場に設置しているマッサージチェアの『弱』の刺激に暫しの間この身を委ねた。
「さて、夜はこれからか……」
不意に、呟く。
部屋に戻れば、そこには真が待っているはずだ……。
僅かな期待を覚えつつの若干の昂揚が、入浴後の身体を適度な火照りを伝える。そんな長閑な時間を邪魔したのは、一本の電話だ。
びしょ濡れになった海からの流れで、携帯を部屋に置くことなく文字通り携帯していたせいで、耳にしたくもない男の声を聞く羽目になってしまう。
『先輩――例の件、少しは考えていただけましたか?』
「……」
第一声からしてその不躾な言い様は、もちろん太田なのであった。
うるせえ――と通話を切ってしまいたい気分が大半。だが、そうできるなら着信を無視している。そうできない己の矮小さを自覚しながら、俺は仕方なく太田からの電話に応対した。
「昨日の今日だぞ。随分とせっかちなんだな」
『先輩のためを思ってです。決断は早いに越したことはないですからね。会社の方だって先輩の処遇を、いつまでも保留にしてくれるほど甘くはありませんよ』
「そもそも俺の方で、頼んだつもりはねーけど……」
『その通り! ですから本来なら、感謝してほしいくらいです』
「感謝……だと?」
『ええ、寛大な会社側と――それに、僕だってこうして骨を折っているわけですしねー』