ほんとのうた(仮題)
第7章 二人の時間(とき)に
些か頭にきた俺は、それが太田の挑発であると知りつつも、その時の感情のままに言葉を携帯へと吐き捨てている。
「感謝などするか――この下衆ヤロウ!」
『へえ……』
電話越しに太田の声のトーンが変わったのが、最初の一言で明らかに伝わった。
『それが答えですかぁ。先輩って意外と薄情な人なんですね』
「そう思うのは、俺がお前に感謝をしないからか?」
と、一応訊いてみると。
『嫌だな。そんなこと言ってませんよ。僕が言いたいのは、斎藤さんたちのことです。先輩ともあろう人格者が、元の部下たちを見捨ててしまわれるのですね……』
太田はわざとらしい寂しげな口調で、そんな風に言う。
よくもまあ、抜け抜けと。俺は呆れた。そもそも、その彼らを退社に追い込もうとしている張本人が、お前自身だろうに……。
しかしそれで、太田の魂胆が俺予想通りであることが知れた。ならばもう、この男と話す意味などなにもない。否、金輪際もう声だって耳にしてやるものか。
「太田――お前の要件は、それだけか?」
『ええ――まあ』
「じゃあ、はっきりとしてやるよ。俺は会社には戻らない。社長にも伝えておけ」
とっくに苛立っていたこともあり、俺は勢いのままにそう言い切ってしまった。