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ほんとのうた(仮題)

第7章 二人の時間(とき)に


 それが紛れもない本心ではあっても、無力感を痛感させられたのもまた事実である。そしてそれ故に、他に顧みる要素があったことを失念していた。

 だから――

『本当に、それでよろしいんですね?』

 念を押すようなその響きに、俺はややギクリとしている。

『それなら僕も大変残念ではありますが、先輩の復帰はスッキリと諦めることにしましょう。その代わりに――』

「その代わりって――太田、お前」

『ああ、別に気になさらずに。ほんの独り言ですから――アハハ』

 含み込んだような笑みは、俺に当てつける意図があるのは明白。

『では、これにて失礼。そうそう、例の彼女にも、よろしく』

「あっ――オイ!」

 結局、太田はそれを明らかにしないままに、その通話を終わらせてしまった。

 話を切り上げられた俺は呆然としたまま、タイマーでの可動を既に施し終えたマッサージチェアにもう一度深々と背を預ける。

「……」

 あの粘着質の太田があっさりと退いたのは、もう一方の魂胆がその胸の内にあるから。

 感情を優先しその部分を深く考えなかった自分を、今更責めても仕方がないこと。

 急いたとはいえ、出した答え自体に後悔があるわけではない。ではあっても、心の中のモヤモヤするものが残った。

 それは、真のためを思った時に……。

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