
ほんとのうた(仮題)
第7章 二人の時間(とき)に
「……」
俺はまだ、たぶん迷っている。
王道の偉大なるワンパターンを貫くのならば「なんだ、眠っちまいやがって」と苦笑でも浮かべてる。
それでも内心では少しホッとしながら隣りのベッドで眠ってしまえばいい。
実に簡単であり、それでいて心の平和は保たれるはず。それが無難だと思いながらも、今夜の俺は――
「真……」
「ん……?」
俺のもう一度触れた指先に、真の意識が微かに揺れた。
その所在するかもわからぬ意識に向けて、俺は思わずこんな風に囁きかけるのだ。
「俺は、真を……抱きたいって思ってるんだ」
その刹那――――クス。
目を瞑ったまま、その口元が俄かに笑み――そして。
「いいよ」
パチリと大きな瞳が開かれ、真は言った。
「なんだよ……聞いてたのか?」
本当に起きるとは思わず、ややバツが悪そうにおどけた、俺。
そんな顔を見返しコクンと頷いた、真。
そうして――
「そんなの。ずっと、いいって言ってたじゃん」
真はそう囁き、頬に触れた俺の手を握り返した。
その時――
――トクン。
およそ忘れかけたものを思い出すように――それは、懐かしき心音。
