
ほんとのうた(仮題)
第7章 二人の時間(とき)に
誰かと――こんな風に、一心に。
互いの瞳に互いを映し合ったのは、いつ以来のことだろうか。
分不相応なときめきにも似た、でも異なるなにか――が、俺を一気に臆病者にさせようとしている。
そう、それが本来の自分なのだと、必死に言い聞かせようとしていた。
が、しかし――
「覚悟は――決まった?」
真はそう問いながら、指先を絡めたその手を自らの胸の膨らみに、ゆっくりと誘ってゆく。
「なんのための、覚悟だよ」
「さあ、私は知らない。けど、オジサンは私よりずっと長く生きてる分、きっと難しい年頃なんだって思うじゃない?」
「バーカ。大の大人を思春期みたいに言ってんじゃねーよ。それに“覚悟”だなんて言ったら、それこそ失礼だろ」
「それって――なんに対して?」
「今、俺が目の前にしている――真の魅力に対して」
臆面もなくそんなことを話しながら、その瞬間にも俺の右手は浴衣の合わせに沿うようにして、真の柔らかな膨らみに包み込まれていった。
真の言っていることは、半分以上は当たっているのだろう。ただし当然ながら『難しいお年頃』ではなくて、なんとも『ややこしい歳の頃』といった感じではあるが……。
実際、今――真のふくよかな体温に右手を包まれながら、それであるのに俺の頭の中は面倒な思考で頻りにグルグルと回って止まない。
