
ほんとのうた(仮題)
第7章 二人の時間(とき)に
現在無職であった己を自虐しながらも、会社に未練がなかったと言ったら嘘になることは自覚していた。
結局、戻ることなくその立場を確定させれば、不安な想いに苛まれるだろうことも認めている。
更に斎藤さんらの期待にも応えられないことには、やはりやるせない気分にならざるを得なかった。
それでも先程の電話のうっぷんが、今の俺を真へと向かわせているなんて、そんな風には絶対に考えたくはない。
太田が最後に含んだことへの懸念は、確かにあるのだろう。だがそれを振り払おうとしたからこそ、俺は真を連れこんな処にまで辿り着いているのだ。
そう既に、俺は何度も――この情景を望んでいたはずだ。
「……!」
俺が胸から右手を引くと、真は少しだけその瞳を揺らす。
ベッドから立ち上がりそれに背を向けると、俺は壁に供え着けられたキーを捻り部屋の照明を落した。
「オジサン……?」
「よっと」
真っ暗の中を蠢き、俺は手探りにベッドボードへ手を伸ばすと――
――パッ。
今度はスタンドの弱い間接照明が、ベッドの上の俺と真の姿を照らした。
脱力した肢体を、そこに預けたままの真。それを包むように、俺は俄かに軋むベッドの弾力の上に四肢をついている。
そうして――
「……」
ボンヤリとした顔の輪郭を、すぐ下に見下ろした。
