テキストサイズ

ほんとのうた(仮題)

第9章 対峙して


「……」

 その誘惑に乗ってしまいたい気持ちと、そんな自分を諌めたい気持ちがせめぎ合っている。今の情勢は五分五分――というのは嘘で、実際は(よくても)九対一くらいか。俺の大人としての威厳やプライドの類は、ゴミ箱に放り込まれる寸前だった。

 そうは言っても……。

 窓から差し込む陽射しからすれば、天気は晴。朝からこんなことしていて、どの面下げてお天道様の元に出て行かれようか。きっと、罰が当たるに違いない。しかも今日は平日だ。

 それと、真のペースにハマってしまうのが酌というのもある。そんな風に感じた俺は、腕を伸ばして枕元に置かれた携帯を手にした。

 それを、裸の上半身に向け――。

「今すぐどかないと、撮るからな」

 と、脅してみたのだが。

「うん――別にいいよ」

 真はまるで意に介さず、それどころか髪を掻き上げるポーズと取り、あっけらかんとそう答えている。

 その様子に俺は、半ば呆れて言った。

「いいのかよ……。流出させるぞ、人気歌手」

「オジサンのガラケーで、そんなことできたっけ?」

「できるわ! あまりガラケーを舐めるなよ」

 と、丸七年の付き合いとなる携帯を馬鹿にされ、思わずムッとする。

「フフ、そしたら――オジサンのコッチも流出だね」

 そう言った真が、俺のパンツに手をかけた。

 あーあ、結局……。

 そうした流れで、結局はなし崩しになろうとした時だった。


 ――プルル、プルル!


 手の中の携帯が、着信を告げている。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ