ほんとのうた(仮題)
第9章 対峙して
その日の午後。俺は真を助手席に乗せ、車を最寄りの市街地へ向かって走らせていた。
これは目的地のない旅であって、故に暗黙の内に人の多い場所を避けてきた理由は最早、述べるまでもないこと。だからこそ、次第に車の往来の増える都市の風景を窓より眺めながら、真もそれを不思議と思ったはずだ。
「どこへ、行くの?」
そう、訊かれて――
「ああ? 今日はちょっと、用事がある。だからな……」
俺はやや口籠るように、そう答えた。
「用事?」
「ん、まあな……」
応じながら、思慮する。この気まぐれに尽きる旅先にあって「用事」とは、いかにも無理があった。それでも間を取り考えた後、俺はこんな風に返事をしてみる。
「前の会社の取引先が、この近くにある。個人的にも世話になった人がいて、挨拶がてら食事でも、という話になったんだ」
「もしかして、朝の電話の相手――?」
「……まあ、な」
その部分だけは、嘘ではなかった。
「流石に、お前を同伴させるわけにはいかない。悪いが映画でも観ながら、一人で時間を潰しておいてくれないか」
「いいけど、さぁ……」
そう言った真は、少し訝しげに俺を眺めている。違和感を覚えながらも一応従ってくれたのは、彼女なりになにかを察していたのだろうか。
仮にそうだとしても、俺が今から会おうとする人物を知ったのなら、そんな冷静な態度ではいられないのは間違いがなかった。