ほんとのうた(仮題)
第9章 対峙して
結局、朝には出られなかった覚えのない番号からの二度目の電話。三度目の着信はそのすぐ後、真がホテルの部屋でシャワーを浴びている、そのようなタイミングで。気になっていた俺は、数回目のコールで今度こそと、それに応じた。
「――はい」
当然、新井と本名は名乗らない。まだ知らぬ相手への警戒を怠ってはならなかった。
すると、通話相手は――
『突然のお電話になりましたこと、大変恐縮いたしております。こちらは新井裕司様の携帯で、お間違いございませんか?』
それは、落ち着いた女の声。そして少なくとも相手は、これが俺の携帯番号であることを承知していた。
「そうですが――そちらは?」
『重ねて、失礼いたしました。私――AFM企画・代表の上野と申します』
「……!」
この時点で、ある程度の予感は生じてはいた――が。
「えーえふ……企画……?」
俺は考えを巡らせつつ、わざと惚けたように言った。
『天野ふらの、所属の――芸能プロダクションです』
感情を抑えるように低い声ながら、女は明確な口調でそう告げていた。
さて、太田のヤツ。一体いくらで、このネタを売ったんだろうね……?
そんな疑問がまずは頭に浮かぶが、とりあえず、この段階ではどうでもいいことであろう。問題はその取引相手が週刊誌等のマスコミではなく、いわば本丸というべき真の所属事務所であるという点だ。その事実を、どう踏まえるのか……。
それを特ダネとして騒ぎ立てたいであろう週刊誌やテレビ局に比べれば、少なくとも『所属事務所代表』である彼女は内々に事態を治めたい立場のはずであるから、その一点においては、今後の『天野ふらの』の名に妙な傷を負わせる懸念は低い――とは、あくまで表層の話である。
『――とある方から、私共に情報が寄せられております。それによれば、天野ふらのは現在、新井様と行動を共にしているとのことですが……』
「……」
『この情報に、誤りはございませんか?』