ほんとのうた(仮題)
第9章 対峙して
心して答えなければ、ならなかった。
電話の向こう側の相手にしてみたのなら、真の所在を確かめようとすると同時に俺がどのような男であるのか推し量りたいとも考えているはず。その意図が慎重な言葉の一音一音に、透けて見えるようだった。
なに気に、その様な空気を察して――
「ええ……故あって彼女のことは、私の方で保護させていただきました」
俄かにざわめく感情を押さえながら、静かにそう告げた。
『で、では――ふらのは、今も?』
その時、上野という女の声がやや上擦った。
そんな電話越しの声を耳にしながら、俺は堅苦しい口調を改め、こう答えた。
「元気ですよ――とっても、ね」
『そう、ですか……』
電波を介してはいても、彼女が胸を撫で下ろす様子が、よくわかった。
相手が正面から相対してきている以上は、俺の方も極力、嘘を言うわけにはいかない。下手に怪しい男だと思われてしまえば、警察に通報されかねない。俺が最初に『保護』という言葉を選んだことにも、そういった事情が含まれている。
とりあえずこれまでの会話で、俺たちは(おそらく)互いに警戒レベルを一定水準引き下げていた。しかしながら、もちろん話の本題はそれからなのである。
その先も慎重に幾つかの言葉を交わし、その結果――。
『ふらのではなく、貴方様と――?』
「そうです。まずは俺の方で若干、お話を伺えたらと、そう考えています」
俺は上野というその女性と、合う約束を交わした。