ほんとのうた(仮題)
第9章 対峙して
※ ※
「――と、まあ……簡単に話せば、そんな感じになります」
駅よりほど近いカフェ。予定通り到着した彼女を連れ立ち、その奇妙な面会は開始された。挨拶もそこそこに最初に俺が聞かせたのは、真と出会った経緯である。
「そうでしたか。とにかく――ふらのが大変、お世話になりまして」
と、丁寧に頭を下げられた。
パリッとした濃紺のスーツ姿。如何にも仕事ができる女性といった風貌。渡された名刺で知り得た名は、上野佐和子(うえの さわこ)だった。
見たところの年齢では、たぶん、俺より幾分は若い。派手すぎないメークに彩られた顔は、少しやつしてはいても美人であることには変わりないようだ。
真を盾に取るみたいでイメージが悪いから、俺の口から「一人で来るように」と指示することは控えている。屈強そうな男でも従えて来られたら、などと想像して少しビビってもいたのであるが。
彼女が単身でここに来たことには、俺に対する一定の信頼が見て取れた。もちろん表情に緊張は滲ませてはいるが、少なくとも誘拐犯の類だと疑われているわけではないらしい。
ともかく、この上野さんは、真の所属事務所の代表であり。
俺の知り得る限り、それは同時に――真の義母に当たるということだ。
真が無事であると知り(まあ、俺の話をすべて信頼しているかは不明だが)、とりあえず安心したのかもしれない。