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ほんとのうた(仮題)

第9章 対峙して


「それでは――」

 上野さんは発しながら一息つくと、きりりと表情を引き締めて、改めて俺に対峙する姿勢を取った。

 その姿は、小なりといえど芸能事務所の長である、その気概を表したかのように。

「ふらのに会わせてください。今、すぐに」

「あ、えっと……というか、その前に、ですね……」

 豹変したその態度に、俺は思わず怯んだ。

「お話の方は、承知しました。行き倒れ寸前だった、ふらのの身柄を保護された件については重ねて御礼申し上げます。もちろん言葉だけではなく、十分な謝礼の方もご用意させていただく所存です」

「いやっ……別に、そんなつもりは」

「では――どの様な、おつもりでしょうか?」

「え……?」

 彼女は切れ長の冷めた眼差しを以って、容赦なく俺を責め込もうとしているようだ。

「先程のお話によれば、ふらのを連れ現在は旅先であると――そう仰っていました。ですが、それはまた、どういった理由で?」

「それは――買い物先で撮影された画像が、どうやらSNSで拡散したようで……。その場所も特定され、彼女が不安を覚えたために思い立って……」

 しどろもどろに話しながら、俺の額に冷や汗が浮く。俺の中に生じていた動機を話すわけにもいかず、どう考えても無理のある説明だ。

 そんな俺を見透かしたように、上野さんは厳しい追及を続ける。

「それは常識的に考え、大きなお世話だと存じ上げます」

「しかし……」

「大体、この間――貴方は、お仕事をどうされているのですか。まさか、お休みになっているとでも?」

 ぐっ……!

 予期せぬ処から飛んできた言葉のナイフが、俺の弱点を的確に抉る。矢継ぎ早に責められた俺は、正にぐうの音も出ないといった様相であった。

 情けない心情の俺を尻目に、上野さんはコーヒーを一口。それから深いため息をつき、改めて俺を見据える。

「情を移しても、無駄ですから」

「は……?」

「ふらのと貴方とでは、住む世界が違います」

 ――カチン!

 それは漫画の擬音、そのままの音色。それが俺の頭の中で、鳴った。


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