ほんとのうた(仮題)
第9章 対峙して
その後で――
「私共は、天野ふらのを看板とする――いわば弱小プロダクション。彼女を売り出すに際しては、大手レコード会社の意向に従うのは必須なのです」
彼女は厳しい顔つきで、更にこう続ける。
「若い女性ファンを取り込むために、それまで仕掛けたプロモートは決して誤りであったとは思いません。現にそうしてきたからこそ、今のふらのがあるのですから」
「だが、そこに無理があったからこそ――」
と、口を挟もうとするが。
「貴方に、私共の苦労が――例え1ミリであっても、理解できるというのですか!」
「ッ……!」
強い言葉を被せられ、俺は鼻先を押さえられた感覚。
「ふらのだって、本心ではわかっているはずです。あんな気性の子だから、一時の感情に身を流されただけ。よく頭を冷やして考えれば、帰るべき場所に帰るより他はありません」
淡々としたその口調が、また俺の勘に障った。
「それって――結局は、アンタの都合じゃないのか?」
「どういう意味です?」
「俺という男は、どうも――物事を穿った角度で、眺めてしまうタイプでね。いや――悪癖だと自覚はしてるんだが」
「……?」
俺は頭を掻きながら、我ながら呆れる様な卑屈な笑みを作った。
「真は金蔓(かねづる)だと――そう言ってるように、聴こえるんだよ」
「か、金蔓……?」
上野女史の表情が、ぴりりと強張る。図星――か、どうかは知らない。まあ、心外と感じたとしても無理もあるまいが……。
当の俺は「あーあ、言っちまったな……」と内省するも、こうなっては後にも引けなかった。この場で彼女の心象を損ねるのは得策ではないが、俺にしても只、丸め込まれてやるわけにもいかない。
俺は口元に卑しい笑みを携えたままに、更に挑発を強めこう続けた。
「真が金になると思えばこそ、わざわざ個人事務所を立ち上げたんでしょう? そりゃ苦労もするでしょうねー。全てが、自分の野心のためならば」