ほんとのうた(仮題)
第9章 対峙して
「……」
「生前――夫が離婚した経緯を詳細に語ることは、ありませんでした。けれど、私なりに察するものがなかったわけではありません。そして、その時の彼女の立ち振る舞いを見て、私は確信していたのです。ああ、やはり……薄情な女(ひと)だ、と……」
失望ではなく、それはなにかを諦めるような言葉の響き。
その心情に遠慮しつつも、そこまでを聞かせれた俺は、当然その先が気にかかった。
「その後……その母親と、真は……?」
とうに別れた夫に対する想いは、それとしても。否、それならば尚更に、彼女の訪問は真との会うことを望んでのこと――そうであるはずだった。
なのに――
「会っていません。いいえ、私が二人を――会わせませんでした」
上野さんは、この日で最も厳しい顔をした。
「えっ……どうして?」
俺はやや不思議に思い、ぶっきらぼうな聞き方になる。
一方では結果として『会っていない』ことは、出した言葉に反し気づいてもいた。それは「もう、顔も思い出せない」と告げた真の言葉が浮かんだから。
それでも母親はきっと、父親を失った真を心配しているからこそ。既に破綻している夫婦間とは別の感情が、そこに在るのだと疑うはずもないからこそ、俺はそれを理不尽だと感じていた。
しかし――
「あの子――大手レコード会社から、歌手デビューのオファーがきてるんですってね」
「え……?」
その時に、母親との間に交わされた会話を、上野さんは端的に伝えてくれた。