ほんとのうた(仮題)
第9章 対峙して
「それが、あの女の――真に対する、第一声。それから、真っ赤な唇を釣り上げ、ニヤリと愉しげに笑っていました」
「それは、一体……?」
「その後、彼女は続けて――自分の再婚相手が、モデル事務所の社長であると話しています。もう、お解りでしょう。つまり、真の才能を目当てにしていたんですね」
「そんな、馬鹿な!」
母親の訪問の理由は、デビューする娘の将来に『ある種』の期待を当て込んでのことだった……?
如何に別れから時を隔てたとはいっても、それは俄かには信じたくない話である。が、その後の上野さんの言葉には、それが事実であろうと俺に認めさせるだけの力が込められていた。
「真は渡せない――と、私は強く思いました。同時に、この女に負けてもいけない、とも。それが現在まで、私を突き動かしている――その『野心』の源です」
「……」
それまでの話を踏まえ、俺は押し黙る。行きがかり上とはいえ、真すら知らない話を知ったことへの罪悪感のようなものが募った。
すると、暫くして――
「お話したこと全てを信じてくださいとは、申し上げません。ですが、一つだけ――」
彼女は俺の目を見据えて、しっかりとした口調で言う。
「私が夫を愛していたこと――それだけは、信じていただきたいと、切に」
如何に俺とて、その部分に疑いを向けようと思うはずもない。そもそも俺に、こんな話を聞かせる義理など彼女には無いのだ。
「ええ、信じますよ。ですが――」
「……?」
「真に対しての想いは、どのように?」