ほんとのうた(仮題)
第9章 対峙して
その問いに少しハッとして、上野さんは思慮している。それから、慎重に言葉を選ぶようにして、こう答えた。
「夫は死の直前まで、真のことを気にかけて止まなかったことでしょう。その想いに殉じ、私は真を守り抜こうと決めた――今でもその決意に、変わりはありません」
「……」
それは「愛してる」と言われるよりも、少なくともこの場では合点のゆく話となった。
当面の話を終え。俺はバツが悪そうに頭を掻くと、こう切り出す。
「お話の方は、概ね承知いたしました。だがそうなると、貴女に詫びを入れなければなりませんね」
「詫びる、とは?」
「真を金蔓にしてる――などと。よく知りもしないで口にしてしまったこと、本当に申し訳ありませんでした」
挑発の意があったとは、言い訳にもなるまい……。
俺はテーブルに両手を着くと、深々と頭を垂れた。
「そんな、困ります。失礼ならば、私の方にだって――」
「いえ、貴女が真のことを心配するのは当然。それとこれとでは、話が違います」
「ともかく――頭をお上げになって」
ふう、と小さなため息を耳にし、俺は頭を上げ体勢を戻した。
すると、彼女は俺の顔を眺め、感慨を滲ませるように言う。
「とても、不思議なんです。こんな話、誰にもしたことなかったのに……」
「はあ……それは、どうも」
なにが「どうも」かは知らないが、とりあえずそう合わせる。
「こんなこと言って気を悪くしたのなら、ごめんなさい。新井さんの雰囲気は、どことなく……あの人に、似ているから」
「あの人?」
「――真の父親です。あの子が新井さんを慕ったのも、同じものを感じたからかもしれませんね」
上野さんはそう言って、とてもしとやかに微笑んでいた。
が、そう聞いてしまった俺の脳裏には――真との様々な情景が、浮かぶことになり。その結果――
ホ、ホントに――申し訳ない!
俺は内心、床に額を擦りつけ土下座したい気分になるのだった。