ほんとのうた(仮題)
第9章 対峙して
三日という俺が提示した期間に、然したる意味など無い。なんとなくの思いつきに過ぎなかった。それでも、こうして真の身を心配する人を前にしている以上、その辺りが限界であるように思えたのである。
だから、この三日は俺が未練を断ち切るための時間ではなく、真のための時間だ。その中で俺が俺なりに、自分のできる得ること果たしたいと望む。
それは、真という眩い魅力にやられた、哀れなる中年の独り善がりの想いであるのかもしれない。
たとえそうだとしても、この気まぐれに尽きる漫画のような出会いが、うつ伏せだった俺の人生に変化の兆しを齎してくれたのは事実。否、それを事実としたいからこそ、俺は――。
しかし、全てはこの不躾な願いが、聞き入れられた時の話だった。
上野さんはその視線を、ゆっくりと俺の方に向けた。
「私からも、お伺いしたいことがあります」
「どうぞ、なんなりと」
「貴方が、ここまでなさる理由は、なんです?」
そう訊かれた俺は、間を置かずにきっぱりと答えた。
「真の『ほんとのうた』を、聴いてみたいから」
臆面もなく、そう言えた自分を――俺は少しだけ、不思議に感じている。
「ん?」
その時、ポケットの携帯の振動を感じて、俺は着信を確認。見慣れぬ市外局番は、公衆電話である可能性を示していた。
真と別れてから、一時間余り。まだ早いだろ、と思うが。
「ちょっと、失礼――」
と、一言。席を立ちかけると同時に、俺はその通話に応じた。そしたら――
『ああん、もう! 最悪!』
「ッ――!」
突然の大声に、俺の耳の中がキーンとなる。俺は席を離れようとする、その切っ掛けを挫かれてしまった。