ほんとのうた(仮題)
第10章 想い、知らされて
「ふーん。そっかぁ……」
その時、真がどう考えたのか、わからないが。
俺は未だ曖昧に留め、せめて明日までは、と思っていた。
ともすれば顔を出す様々な想いを胸の中に押し込め、俺は至極気軽に改めて訊く。
「それで、どこに行きたいって?」
改めて訊ねると、真は――
「山」
至極シンプルに、そう答えた。
「山って……どの?」
「どれでもいいよ。とにかく、私は山に登りたい気分なの。せっかく都会を離れて、田舎に来てるんだしね」
「つまり、登山か」
「うん。できるだけ、高い山でよろしく」
「お前なあ……あまり山を舐めるなよ。いくら夏場とはいえ、都会育ちの女がおいそれと登山なんか――」
「そんなこと言っちゃってさ。実は自分の体力の方が、不安なんじゃない?」
「バカを言うな。俺は山々に囲まれて育ってるんだぞ。そもそも基本が、お前なんかとは違う」
「だったら、心配は無用だね」
「ああ、わかった。余裕こいて、泣き言っても知らね―からな」
と、そんなやり取りの末。
山か……。まあ、真が望むのなら、それもよかろうと思った。
とりあえず明日の行動を決めると、暫く互いに沈黙する時間が訪れていた。
テレビのバラエティー番組では、今年ブレイクした芸人が話題のネタを披露していて、観覧客の大袈裟とも思える笑い声が頻りに響いている。
それを眺める真の横顔は、愉しげでも呆れた風もなくて。只々モニター画面を、なんの気なしに見つめているようだった。
今はなにも起ころうとしない、なんの変哲もない時間。そしてそれは、昨日までは感じることのなかった時間でもある。
真と出会ってから、そんな長閑な時間を過ごしている暇がなかったのだ。
不意にそれと意識したのは、この時を貴重なのだと認めていたからなのだろう――か。
――プツ、と。突如、テレビは消された。
真はベッドの上にリモコンを放ると、一つ猫のような伸びをしてから立ち上がる。
それから、俺の方へと歩み寄ってきていた。