ほんとのうた(仮題)
第10章 想い、知らされて
「ねえ――なんで、今夜に限ってツインの部屋なの?」
俺の居るベッドの端に腰掛けると、真はそう訊ねてきた。
「ん? まあ、なんとなくだけど」
「ふーん、そう……」
その刹那、ゆっくりと真の顔が近づいてくる――が。
「山に行くつもりなら、明日は早いぞ。今日はさっさと寝た方が、身のためだ」
「私なら――平気だよ」
そう告げて迫る唇をかわすように、俺は咄嗟に身体を起こした。
そんな態度を不審に思ったのか、真はまるで独り言のように呟く。
「あれ? 私、なにかオジサンを怒らせるようなこと、したっけ?」
俺は立ち上がると、その背中に向けて言う。
「怒ってねーよ。ちょっと、風呂行ってくる」
「うん……わかった」
微妙な空気を残したまま、俺は部屋を出て行った。
風呂に行くと言ったのは、ある意味で言い訳である。俺は一階のロビーを訪れると、ソファーに腰掛けて携帯を取り出した。
「……」
電話帳の番号を、上から順次眺めてゆく。確か、十年程前に登録だけはしてあったはず。それから一度も、発信も着信もした覚えはなかったが……。
暫くして、俺は探していた相手の番号を見つけた。
「ああ、畜生。面倒だ……」
思わず、嘆くように呟きつつも、とりあえず俺は一本の電話をかける。
五回ほどのコールの末、相手はそれに応じた。