ほんとのうた(仮題)
第10章 想い、知らされて
「よう――久しぶり」
とか、気軽な挨拶を口にしてはみたが。虚を突かれたであろうヤツにしてみれば当然、同じようにはいかないらしく。電話の向こうから聴こえた声は、最初に酷く慌ただしいものとなった。
そのテンションが鎮まるのを暫し待って、俺は要件を切り出す。
「――まあ、そう言うな。驚かせたんなら、それは悪かった。実は一つ、お前に折り入って頼みがあるんだよ」
そんな風に言えば、ヤツが懐疑的になるのも仕方がなかった。きっと、ロクな用事だとは思っていまい。
俺にしてみれば別に、なんら難しいことを頼むつもりはなかった。それでも、著しく気が進まないのは事実ではあるが……。
だが、おそらく――それが必要な場面は、きっと来るはずだ。
「ああ、明後日だ。上手く、伝えておいてくれ」
一応の約束を押し付けるようにして、俺はその電話を切った。
その後、大浴場で簡単な入浴を済ませると、部屋へと戻って行く。
部屋の中では小さな間接照明が、ひっそりとベッドの周辺を灯していた。隣のベッドを見ると、頭から毛布をすっぱりと被り、たぶん真は寝ているのだろう。
俺は物音を絶てないようベッドに腰を下ろすと、暫くの間、無言のままじっと隆起した毛布の形を眺めていた。
妙だと、思わせてしまったかな……。