
ほんとのうた(仮題)
第10章 想い、知らされて
「うーん……しいて言うのなら、チャッピーじゃない?」
「ちゃぴい……とは?」
「昔、おばあちゃんの家で飼っていた、柴犬だよ」
真は悪びれた風もなく、そう答えた。
柴犬にしては、ハイカラな名前だよね。それにしても、人ですらなく……犬?
予想をあまりに意外な角度から覆され、俺はそれをどう咀嚼していいものかわからずに思わず言葉を失ってしまった。
「普段は、おっとりした子でね。だけど一度。散歩に連れていった時のことを、よく憶えてるんだ」
「……?」
「その頃、家の近所にね。二つか三つくらい年上で、私のことをイジめる男の子たちがいたの。その日も散歩してたら、道端でバッタリ出くわしちゃってさぁ。私、思わず足が竦んで、一歩も動けなくなって……」
「へえ……真にも、そんな可愛い頃があったんだな」
「話の腰を折らないでくださらない。こう見えても私って当時は、気弱で幼気な美少女だったんですけど!」
自ら「美」をつける辺りが、どうもその少女時代を想像し難くさせてくれるのだが。そこをツッコむと、また面倒である。
