ほんとのうた(仮題)
第10章 想い、知らされて
「悪い悪い――それで?」
「うん。そしたらさ――震える私を庇うように、チャッピーが吠えたの」
真は遠い日の光景を懐かしむように、その声に情感を込め更に続けた。
「その男の子たちが思わず怯むくらいに。地面に四肢を踏ん張って――それは必死に、吠え続けてくれた。私、その時――チャッピーが側にいてくれたこと、とっても心強く感じていたの」
「ふーん……」
暗闇に慣れつつあった視界が、真の潤んだような瞳の光を捉えている。
真の些細な思い出話に、この耳を傾け――
「俺はチャッピーみたいに、頼りになんてならねーぞ」
と、言う。
「フフ――それは、そうだ。チャッピー、ごめんね。こんなオジサンに似てるだなんて、さぞ心外でしょうに」
「オイ……チャッピーの方に謝るのかよ」
「アハハ! 些細なことを、気にしない」
「チッ、まったく……」
褒められたような、そうでもないような微妙な気分だ。少なくとも悪い気はしないから、そこで話が終わっても一向に構わなかったのであるが。
「別に、誰に似ている必要なんてないと思う」
「なんで……?」
「オジサンは、オジサン――今は私だけの、オジサンでしょ?」
真はそう言うと、寝返りを打って身体を向けると、俺の方をじっと見つめた。
「……」
俺はどう言っていいのかもわからず、黙ってその瞳を見つめ返す――だけ。