ほんとのうた(仮題)
第10章 想い、知らされて
※ ※
その明くる日の朝は、それまでの旅とは打って変わり、慌ただしい始まりとなっていた。
「うーん……まだ、眠いよぉ……」
「コラ! 行きたいって言ったの、お前だろうが!」
俺はベッドでごねる真をなんとか叩き起こすと、まだ朝日が顔を見せる前にはホテルを後にしていた。
それでもこれから登山に行こうというのであれば、あまりにも呑気なスタートであろう。そもそも前日に思い立ったばかりで、とてもお気軽に「高い山に登ろう」という態度に無理があるのだ。まったく、山を甘く見るなよ……。
まあ、それは今更いい。登山をトレッキングという言葉に置き換えてみれば、なんとかなりそうな気もする。俺自身にしろ大した経験があるわけではないが、地元に戻れば3000M級で初心者向けのコースが思い当らないこともなかった。
晴天を予感させる朝の陽射しを背中に浴びながら、俺は車をハイウェーに乗せ辿って来たそれまでの旅路を戻って行く。
目指した先は、北アルプス。登山口のあるバスターミナルに到着した頃には、もうすっかり陽も高い。だが既に標高2500Mを超えると、肌を撫でる風は殊の外涼しかった。
良く晴れ渡った天候は、最大の救いである。そうでなければ、この無謀な登山初心者を山が迎え入れることはなかろう。
「オイ、真。その恰好じゃ駄目だ。ズボンを履け。あと上も――」
「ええっ、だって……そうすると、このクソダサいジャージしかないんだけど……」
「ジャージの、なにが悪い。文句を言うな」
「あーあ、だからさぁ。先にそれなりの服買いに行こうって、言ったじゃん」
「山ガールか、お前は。恰好なんてどうでもいいから、とにかく着込んでおきなさい」
後半まるで、お母さんのような口調になってしまった。