ほんとのうた(仮題)
第10章 想い、知らされて
不平を漏らす真を適当に宥めつつ、レストハウスで遅めの朝食を済ませると、俺たちはいくつかある道より二時間強で山頂を望めるルートを選び、山道を登り始めていた。
砂利を引きつめられた登山道は、初めに俺たちを緩やかな傾斜で迎え入れてくれる。広く開けた視界が、とても開放的だった。
行く先には何組かの登山者のグループが、各々のペースで頂を目指しその歩を進めている。比較的楽なトレッキングコースであることから、年配者の姿も多い。既に下山して来る人々は、御来光を目的としての登頂であったようだ。
ともかく、胸に吸い込まれる空気が違っている。山々の雄大な景色を目にしていることもあり、次第に清々しい気分になるのも自然なことであった。
と、遠ざかって久しい自然の在りように、感動を覚えたのも束の間のこと――。
「オジサーン! 遅ーいっ!」
それは、遥か先から真が張り上げた声。一向に追いつかぬ俺を急かすように、両手を大きく靡かせ「おいで、おいで」と手招きしている。
方や、俺はといったら――。
「ちょ、ちょっとだけ……休憩ぇ!」
はあ、はあと息を切らせつつ、手ごろな岩を見つけたのを幸いと、そこへ腰を下ろした。その刹那、遠くではあっても、真が浮かべたであろう呆れ顔がはっきりと見えた気がする。
「もうっ、またぁ! そのペースだと、日が暮れちゃうんだからー!」
そう言うなって……。足手まといで、すまないけども。いや、ホントに……。既に大声を張り上げる気力もなかった。
きっと、こうなるだろうと思っていた? いやぁ、だからこそ、このベタ過ぎる展開だけは避けたかったが。そうは言ってみても、この中年の身体の体力低下には抗えはしない……。
よし、来週から運動でも始めようかな。あ、その前に職探しだよね……まったく。