ほんとのうた(仮題)
第10章 想い、知らされて
太陽を程近くに感じながら、名も知らぬ高山植物は控え目であっても、しっかりと花びらを広げている。
同じ斜面の日景の山肌には、焼かれたパンの上で溶けかけたチーズような、真っ白な残雪。更に下方には、その雪解け水を蓄えた小さな池が。
その水面でキラキラと柔らかい日の光りを映し取り、揺らして返した。
「んー……爽快」
それら全てを撫ぜた風を胸一杯に吸い込み、真はその微笑みを零す。
来て良かった。と、俺は思う。真が、そう思わせてくれた。
願わくば、先程までのわが身の体たらくは、忘却の彼方へと――切に。かく言う俺自身は、既に清々と疲れも癒されて、この瞬間の景色――それと。
その最中で輝く真と、その手の温もりに――昂揚してゆくのだ。
山頂付近は次第に、ごつごつとした岩場の連続となる。流石に手を繋いだまま昇るわけにもいかず、俺たちは一歩一歩を踏みしめるように着実に更に上を目指していた。
ようやく辿り着いた山小屋にて、束の間の一息。ここまで来れば、ゴールは目の前である。水分の補給を終え、俺たちは堆い剣が峰へと臨む。
そして――
「ふう……」
額を伝う汗をぬぐうと、眼下に広がった最高の景色を、俺は感慨も深く眺めるのである。
その傍らに、ぴっと肩を寄せて――
「やったね!」
真はとても嬉しそうに、そう言ったのだ。