ほんとのうた(仮題)
第10章 想い、知らされて
「……」
暫しの間、同じ光景を目にし、同じ空気を吸う。
今――真と共に、頂に在ること。それだけのことが、どうしようもないほど、不思議で。
そう感じてしまうのも、流れ行く雲を見下ろしているせい――なのだろうか。
「すみません。宜しければ、写真を一枚――」
山の標高を記した杭の前で、人の良さそうな白髪の男性に声をかけられた。
「では――撮りまーす!」
俺は気軽にそれに応じると、受け取ったカメラにてシャッターを切った。白髪の老紳士の隣りには、同じくにこやかな笑顔を浮かべている奥さん(たぶん)が寄り添っている。
役割を終え、カメラを返す時だ。
真から、こんな提案がある。
「オジサン――私たちも、撮ってもらお」
「いや、しかし……」
と、躊躇するも。
「いいでしょ。記念に一枚だけ」
押し切られた格好で――その結果。
「はい――笑って」
――パシャ!
老紳士の手により、その一枚は俺の携帯の中へと収められていった。