ほんとのうた(仮題)
第10章 想い、知らされて
俺の使い古されくたびれた携帯の中に刻まれた、たった一枚の情景と並んだ二人の姿。それが、その後の俺の人生になにをもたらすというのだろう。
単なるデータに過ぎないそれを、何年後かの俺はどんな想いで見つめるというのか……。
なんて、そんな感傷は柄でもないから。きっと想像したところで、大した意味など皆無だった。
「――ん?」
ふと空を見上げた俺は、急に怪しくなろうとする天候の変化を察知する。
「真、そろそろ戻った方がよさそうだぞ」
と、下山を促そうとして声をかけた。
当たり前だが、雨に降られるのは望むところではない。一応は非常用のレインコートを買い求めてはいたが、天気の荒れ具合によっては、それだけでは十分とは思えなかった。
少なくとも山小屋に身を寄せ、様子を見る必要があるだろう。だが、真は――
「オジサン――あの岩のところまで、行こう」
「オ、オイ……待てよ! 雨が降って……」
「平気! 少しの間だけだから」
そう言う真に再び手を引かれる形で、尾根伝いを進んだ。上空の雲の動きに合わせるように、足元には立ち込める煙のような霧が山肌を覆い始めていた。