ほんとのうた(仮題)
第10章 想い、知らされて
「真――足元を気をつけ――ろっ!?」
「もう! 言ってる先から、自分でコケそうにならないでよ……」
「だ、だから……もっと、ゆっくり」
「ホラ――文句言ってる内に、もう着いたよ」
そこは尾根から突き出したような、大きな岩場だった。
「真……危ないって」
俺の心配もよそに、真は軽快な足取りで、その先端に登ってゆく。
「そんなところに登って、どうする気だよ?」
俺は岩の下からそう言って、その後姿を見守っていた。涼やかな風に流れる霧の最中で、真がポツンと岩の上に立ち尽くしている。
まだ雨は落ちて来ないが視界を遮る霧は頬を俄かに濡らしてゆくかのようで、俺は肩にかけていたバッグからレインコートを取り出し、真に差し出して言った。
「とりあえず、コレを着――」
「待って!」
「――!?」
強い言葉で遮られ、止む無く俺はコートを携えた手を下げた。
「お願い――もう少しの間、そのまま待ってて」
穏やかな言葉で言い直すと、真はそのままスッと瞳を閉ざす――。