ほんとのうた(仮題)
第11章 頼むから
「オジサンの好きなチーム、勝てそう?」
「ああ、あとは――クローザー次第だな」
「クローザーって?」
「リードしてる試合の最後に登場する。文字通りゲーム(試合)をクローズ(閉ざす)する、投手のことさ」
野球をほとんど知らない真に対し、俺はそんなことを語ってゆく。
一体、なんの話だ……って、我ながら思ったが。
最後の夜かもしれない時に、野球なんてほっとけばいいだろ、と。どうせ、我が贔屓チームは最下位独走中である。それなのに――だ。
ワアアア――!
テレビ画面の中の球場が、地鳴りのような歓声に包まれた。
「あ、出て来た。あの人が、その――?」
「そうだ。このチームの、クローザー」
背番号99。ずんぐりとした体型。顎髭を蓄えた顔で、クローザーの投手が投球練習を始めてゆく。
「うーん……鬼気迫るって感じ。なんか、怖くない? 髭のイメージもだけど、あと目つきもギロッとしてるし」
「そう見せなきゃ、やってられないんだろ。きっと――」
「どうして?」
「このクローザー――ああ見えて、確か歳はまだ23くらい。普段は天然な性格が災いして、チームの中では専らイジられ役らしいぞ」
「えっ、若っ! 私と、そんなに変わんないじゃん。それと、そんなキャラだなんて、とても思えないけど……」
「つまり。それだけ、強い気持ちが必要な仕事だってことだ。力や技術を超えた気持ちの部分で、敵を圧倒しなければならない。そのためならば、外見すらも飾り立てる」
そう言って、俺が真を見ると――
「……」
その横顔は強張り、コクンと小さく喉を鳴らした。