ほんとのうた(仮題)
第11章 頼むから
その不意な問いに対して、真面目な顔を向けて――
「な、なんで……私にいうの?」
そう言った真は、きっとまだ無意識である。
瞬間的なことだったとしても、さっきの真は名も知らぬ一人の投手にその想いを重ねていた。そうであったからこそ、なにかに耐え兼ねるように、その瞳を反らそうともしたのだ。
無責任にプロの厳しさを口にした俺なんかより、その意味では真の方が、ずっと彼の心理を理解しているのだろう。
間違いない。暖かい励みでこそあれ、それ故に一度背を向けてしまえば、それはどこまでも重く圧し掛かるもの――。
おそらく――それが、ファンという想いの形ではないか。そして、それをどう捉えるかは、その眼差しを感じる『彼ら』の心の姿勢次第なのだ。
真は――天野ふらの、として。一度は、その重圧から逃れていて、今もその途上に在る。別に本心では逃れたつもりではなくとも、世間を騒がせている現状に真がストレスを覚えないはずはなかった。
期せずして、その様な意識が色濃くある、今だからこそ。俺は更に明確に、その部分を訴えなければならない。
だから――
「もう、帰れよ」
「え……?」
「真が在るべき場所に、帰る時がきたんじゃないのか?」
俺の顔をキッと睨んで――直後。
「アハハハ!」
真は、弾けて笑って――その後。
「嫌だ!」
子供がへそを曲げたように、そう言い切った。