ほんとのうた(仮題)
第11章 頼むから
「ライブ会場から駆け出すお前が、最後にファンに残した言葉――が、確かそうだったな」
「だから……なに?」
ツンとした言葉に、俺はため息を零して。
「お前はファンの前で、いずれは戻ることを約束していたんだ」
「だから、あの場所に戻れって? ホント、単純だよね」
「義務でそうするわけじゃないだろ。真自身――再びあのステージに立つことを、常に思い描いていたはず――違うのか?」
すると真は上擦る声で、こう話した。
「私は、あの時の自分を否定してきたの。だからこそ、『天野ふらの』のファンの前に、私が再び立つことは、そんなに簡単なことじゃない……」
「そうかもしれない。だが、できるさ。お前はもう探してたものを、掴みかけているじゃないか」
山頂での、あの唄。そのフレーズを浮べ、俺は言うが――。
「フフフ――知ったようなこと、言わないで。オジサンって、もっと人の気持ちがわかる人だと思ってた。それだけに、なんだかガッカリだな……」
「それは、買いかぶりだよ。俺は真のホントの気持ちなんて、察してやることはできない。だから、お前が怒ったって何度でも言う。早く、帰るんだ」
「だ、だからぁ、なんで――」
苛立って振り向いた真の――その顔を見据えて、俺は窘めるように言った。
「オイ――小娘。いつまでも、逃げてはいられねーぞ!」
俺が挑発的に、そう言ったことにも、一応の意味はあった。
しかし、それは真が抱く想いとは、無縁であろう。
「ふーん、そっか――」
キョトンとして、静かに俺を眺めて――
しかし、その表情とは裏腹のような涙が、ポツリ、と頬に零れた。