ほんとのうた(仮題)
第11章 頼むから
俺が大学における最終学年を迎えようとしていた、その当時。城崎の家では卒業後の俺の扱いについて、頻りに話し合われていたということだった。
それは当人の意志とは、まるで無関係なものであり。親父の会社に入社することは、もちろん大前提。入社してからの配属先や、その職場での教育係に至るまで、その頃には既にかなり詳細な部分までが決定されていたようだった。
五年先に幹部候補として入社していて、元から学業が優秀だった長男の揮市の場合とは違う。不出来な次男であった俺の場合は、現場から鍛え上げようという意図がありあり。そんなものが親父の頭の中に描かれた、俺への育成方針であったのだろう。
当時まだ高校生だった三男の拓実から、その話の内容を耳にしては、俺は心底から辟易としたものだった。
人の人生を、勝手に決めんなよ! そう思いながら、なのに――。
他になにをしようと俺自身が、強く希望を思い描いていたわけでもなくて……。
大学での生活も三年目から四年目と、周囲は慌ただしくなってゆくのにも拘らず。就職活動もせずになんとなく過ぎる日々を見送っていた俺は、おそらく――ひねくれた性根はそのままに、結局は親父の思い通りになろうとしていたのだろう。
当時の俺の反骨精神など、その程度のものに過ぎなかった。だが――
「病気の彼女の弱々しい姿を前にした時だ。俺は……初めて親父に、抗う理由を見つけていたのかもしれない」
「じゃあ……?」
「俺は彼女のことを、その傍らで支えるようと決意し。地元には戻ることなく、そのまま彼女の居る東京での就職を希望したんだ」
「その時に、お父さんと喧嘩を……?」
「ああ……派手にやり合ったよ。結果、親子の縁を切ると啖呵を切って、家を後にすると――そのまま、今日までに至っている」
俺は口元に自嘲気味な笑みを浮かべ、そう話した。