ほんとのうた(仮題)
第2章 緊急モラトリアム
そんな風に思いながら、俺はため息交じりに訊ねた。
「じゃあ、なんて呼べばいいんだよ?」
「真」
「まこと……?」
「そう――真実の真で、まこと。それが、おばあちゃんが名付けてくれた、私の名前だから……」
真――は、やや遠い目をすると、そのように語った。
「それで。どうして、お前は――」
「お前じゃなぁい――真! せっかく教えてあげたんだから、ちゃんと名前で呼んでよね」
ちっ……人のことは「オジサン」呼ばわりしてるくせに随分と偉そうだな。
「じゃあ、その真さまは――なんだって、こんな田舎街まで来たんだ?」
「別にぃ、どこでもよかった。自分を取り巻く環境ってのが、急に嫌になってさあ……とにかく、どこかに行ってしまいたかったの。しがらみから逃げられれば、それでよかったんだと思う」
「それで、身一つでライブを抜け出し。気がついた時には、見知らぬ公園で行き倒れってわけかよ? オイオイ、随分と無計画な話じゃないか」
「別に……オジサンには関係ないでしょ」
「……」
俺は思わず、この耳を疑った。あまりの言われように、逆に笑いが込み上げそうだ。というか、胸がムカムカしてさっき食った物が込み上げかねない。
昨夜の公園で俺が声をかけなかったら、お前はどうしていた? 決して恩を傘に着せようというつもりではないが「関係ない」は甚だ心外である。