ほんとのうた(仮題)
第2章 緊急モラトリアム
ち、畜生……しかし相手は著名人とはいえ、まだ二十歳そこそこのガキ。ここは大人として、俺が肝要な心で応じなければなるまい。それにしても……。
俺が苦渋の表情を隠さず、一人激しく葛藤していた時である。
真はキョトンとした顔で、実に軽々しく俺にそれを訊ねた。
「それはそうと、オジサンは一体なにをしてる人なの?」
「え……?」
「今日は平日でしょう。会社とか、行かなくていいわけ?」
「そ、それは……だね」
ついさっきまで問い詰めていたのは、俺の方だったはず。だのに、たった一言二言をもって、完全に攻守は入れ替わってしまっていた。
「実は事情があって……それまで勤めていた会社を、俺は昨日……」
「昨日?」
「や、辞めた……」
「じゃあ、今日からは、どうなるの?」
「まだ……未定」
「つまり、それって?」
端的な言葉で的確に与えられた、精神的ダメージ。それを振り払らわんとしたのか、俺は敢えて大声で答えていた。
「ああ、今の俺は――無職だよっ!」
初夏でありながら、この身が凍りつくまでに寒々しい。冷静に考えれば、この女に正直に教えてやる必要があったのか……?
俺の取り留めなき告白を、聞き届けた真は――
「アハハハ!」
なにが面白いというのだろうか。大口を開くと気持ちいいくらい朗らかに笑ってくれている。
「俺が無職なのが、そんなに面白かったのかい……?」
流石にムッとした俺は、全身に哀愁を漂わせながら静かに問う。
そしたら彼女なりに取り繕おうという気持ちが生じていたのか、不意にこんなことを言い出した。
「フフフ……違うよぉ。オジサンのこと、笑ったわけじゃなくて。私ねー、いいこと思いついちゃって、さぁ」
いいこと……?